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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1614号 判決

主文

本件控訴を棄却する。但し、原判決主文第一項は、「控訴人は被控訴人に対し別紙目録記載の建物部分を明け渡し、昭和二九年二月四日以降右明渡しずみに至るまで一か月一万円の割合による金員を支払え。」と変更された。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、なお、請求を減給して別紙物件目録記載の建物部分の明渡しと昭和二九年二月四日以降右明渡しずみに至るまで一か月一万円の割合による金員の支払いを求めるに止め、控訴代理人は右請求の減縮に同意した。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり、附加し、改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目―記録七二四丁―表七行目に「別紙目録」とあるのを「別紙物件目録」と改め、原判決七枚目―記録七二九丁―裏二行目「同三宮慶雄」とある後に「第一、二回」を加える)。

一  被控訴代理人は、次のように述べた。

1  被控訴人は経営不振のため解散し清算中であつたが、その後会社継続をし、日本電化工業株式会社は吸収合併し、商号を日本電化工業株式会社と変更し、その代表者代表取締役を板倉良平とし、本店も東京都千代田区丸の内三丁目三番一号新東京ビルディング六階に移転した。

2  被控訴人が昭和二七年一二月一六日控訴人に賃貸し、控訴人が占有している建物部分は別紙物件目録に記載したとおりである。

二  控訴代理人は、次のように述べた。

1  一1および2の被控訴人主張事実を認める。

2  別紙物件目録記録の建物部分についての賃料相当額が一か月一万円であることを認める。

三  証拠(省略)

理由

一  当裁判所の事実認定およびこれに対する判断は、次のとおり改めまたは附加するほかは、原判決と同様であるから、その理由(一)ないし(五)を引用する。

1  原判決理由(三)(イ)のうち、(1)冒頭掲記の証拠として「各成立に争いのない甲第八号証……検証の結果」(原判決一五枚目―記録七三七丁―表五ないし六行目)とあるのを「成立に争いのない甲第八号証および本件火災後の本件建物の写真であることについて争いのない乙第二号証の一ないし一五(但し、一は二ないし六、二は一ないし三、五は一ないし四、六および七は各一ないし三、八は一、二、九および一二は各一ないし三、一二および一四は各一ないし四、一五は一、二)ならびに原審における検証の結果」と改め、(1)に本件火災の目撃証人として掲げられた「小西保明、小平大吉」(原判決一六枚目―記録七三八丁―表末行、裏初行)を「原審証人小西保明、同小平大吉」と改め(1)の末尾(原判決一六枚目―記録七三八丁―裏四行目)の次に行を改めて左のとおり加える。

「もつとも、当審証人下牧武、同久保田実の各供述によれば、前記二階床板の焼け落ちた階下に、本件火災後幅約七五センチメートル長さ約九〇センチメートルの印刷用紙が一階床上五、六〇センチメートルの高さの台上さらに約一メートルの高さに積み上げられ、その上部一〇枚ないし一五枚は燃えかすとなり、周囲は炭化、変色していたことが認められる。しかし、右両供述によれば、右積み重ねられた用紙の頂きと天井との間にはなお一メートルの余地を残していることが認められるから、前に認定した(三)(イ)(1)の事実を考えあわせると、右用紙の燃える火が原因となつて二階の焼け穴が生じたとは認め難く、ほかに、前認定を動かすだけの証拠はない。」

2  原判決理由(三)(イ)(2)を次のとおり改める。

「控訴人は、本件火災は漏電によると主張し、成立に争いのない甲第五号証によれば、昭和二九年一月二一日一二時から一五時までと同日一七時から一九時までとの両度東京都では合計八・三ミリメートルの降雨があつたことが認められ、前顕甲第八号証によれば本件火災当時本件建物内の動力用配電線には電流が通じていたことが認められる。しかし、右甲第八号証、成立に争いのない甲第七号証によれば、本件建物階下壁面配電ヒューズの一部が燃焼しているのは短絡によるものであるところ、右短絡は火災による燃焼のため被覆絶縁材料の焼失したことが原因となつて二次的に起つたものであつて、短絡が原因となつて発火したものであるとは認め難く、また、右証拠資料によれば、比較的少量の漏洩電流により長時間内に次第に温度が上昇して招いた発火とみるのはスイッチヒューズが切断されていることにそぐわず、さりとて機械、器具類の故障による漏電を認むべき資料もない。もつとも、前顕乙第二号証の一ないし一五、当審証人下牧武の供述によれば、本件建物階下西側壁附近すなわちストーブ下と同東側壁附近すなわちスイッチボックス附近の炭化の深いことが認められるが、成立に争いのない甲第六号証の一、二によれば西側建物部分と東側建物部分の注水消火時間の差異が明らかでない本件について炭化状況からは燃焼の先後を確定し得ないというべきであり、ほかに、漏電説によつて前記認定を左右するに足る証拠は見当らない。」

3  原判決理由(三)(イ)(4)のうち「証人神崎恒雄(第一、二回)」(原判決一七枚目―記録七三九丁―裏二行目)とあるのを「原審証人神崎恒雄(第一回)」と改め、「同証人ら(同裏六行目)とあるのを「右証人雨宮」と改め、「被告代表者南郷茂宏本人(第一ないし第三回)」(同裏八ないし九行目)とあるのを「原審(第一回)および当審における控訴会社代表者本人」と改める。

4  原判決理由(三)(ロ)のうち「被告代表者南郷茂宏本人(第一ないし第三回)「(原判決一八枚目―記録七四〇丁―裏九行目)とあるのを「控訴会社代表者本人(原審第一、二回、当審)」と改め、「証人三宮慶雄」)原判決一九枚目―記録七四一丁―表一行目)とあるのを「原審証人三宮慶雄(第一回)」と改める。

5  原判決理由(五)を次のとおり改める。

「次に被控訴人の控訴人に対する本件建物の返還義務の不履行による損害賠償請求については、控訴人が火災後も本件建物を占有使用していること、控訴人の本件建物に対する相当賃料額が一か月一万円であることはいずれも当事者間に争いがないから、被控訴人が控訴人に対し賃貸借終了後である昭和二九年二月四日以降本件建物明渡しずみに至るまで一か月一万円の割合による遅延損害金の支払いを求める請求も正当として認容すべきである。」

二  よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるから、民訴法三八四条一項に従つて本件控訴を棄却することとし(なお、被控訴人が当審において請求を減縮したので、原判決主文第一項は、主文第一項但書のように変更されている)、訴訟費用の負担につき同法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

東京都中央区越前堀二丁目一番地所在

一 木造スレート葺二階建事務所兼倉庫一棟

床面積  一五八・六七平方メートル(四八坪)

二階面積 一五八・六七平方メートル(四八坪)

のうち

床面積  一二五・六一平方メートル(三八坪)

二階面積 一五八・六七平方メートル(四八坪)

(別紙図面赤線をもつて囲まれた部分)

別紙

〈省略〉

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